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極力、政府の市場介入を避けるかたちで社会を運営する米国であっても、高齢者医療保険や福祉医療の仕組みは取り入れざるをえず、それらは六五年から始まって年いる。
その結果、米国の医療費支出に占める公営保険からの支唖出割合は年々増えている。
このことは六〇年代初めに国民皆保険を達成し、七三年には老人医療の無料化にはあるが、収束するところは似たものになりそうな感がある。
そして、現在のところ、両国ともに医療財政問題が深刻である。
あとでも説明することになるが、マネジドケアには明確なロジックがあるため、医療保険の公営民営を問わず、この財政問題を解くための重要なヒントになるものと思われる。
近年になって米国では、ある程度以上の規模の企業は人事部の中に福利厚生管理課というセクションを設けて、保険会社の選別と保険内容の検討などを行い、保険契約を管理し始めている。
日本では勤め先の被用者保険である健保組合に選択の余地がないので、このような仕事は事務的に済まされているが、米国では企業内の重要な専門職となりつつある。
その背景には、医療費が企業雇用主側に及ぼす経済的影響が、八〇年代に入る頃から深刻さを増したことがある。
その結果、たとえばゼネラルモーターズでは、自動車一台当たりのコストの内訳でみたときに、鉄板の費用よりも、それにかかる人件費中の医療保険負担のほうが大きいという事態が報道されたことに象徴されるように、一国の基幹産業の国際競争力減退の危機感をもたらすまでに至った。
このようなことからも、医療費管理に対するトップマネジメントの関心は大きくなる一方であった。
そして、米国は八〇年代後半から九〇年代初めまで長い経済不況に突入し、止まらない医療保険負担の高騰、つまりは医療費の高騰が企業の深刻な経営問題となった。
そのため、C大統領の医療“改革提案の以前から、支払い側である民間の企業では悠長なことはいっておれなくて、さまざまな従業医療コスト削減の試みが続いていた。
一方、企業側に限らず、先にも述べたように米国政府側でも公営医療保険財政は大きな問題となっていた。
わが国の診療報酬体系について言えば、一九五八年の甲乙二表の医療費新点数表の発表とそれに続く国民皆保険制度の達成以降、繰り返し改定を行ってきたが、ロジックの追求よりも、保険者側と医療提供側との間での政治的折衝が先行したため、つぎはぎの体系となってしまった。
この問題への対処は再三、求められ続けてきたが、今般、九八年十一月からようやく米国のDRG/PPSに習った急性期入院医療の定額払い、通称「日本版DRG/PPS方式」の実験が国立病院など一〇カ所で開始された。
だが、試行に三年、その後に分析ということであるから、その成果のほどはまだ先のことになる。
米国では既に一五年近くも前から開始されている内容であるため、DRG/PPSはすでに一般的なものになっており、病院関係者たちにもよく知られている。
そして、H大学の医療政策研究者の間ではとくにこれだけを取り立てて研究する人は見当たらず、本書の主題であるマネジドケアとの関係で取り上げられることが多い。
RBRVSについても、同様である。
このような時代感覚もあって、ここではDRG/PPSやRBRVSを重要とは認識するものの、マネジドケアの経営技術の一つとしての紹介にとどめる。
さて、ふたたび米国医療制度の再構築の話に戻る。
米国連邦政府ではDRG/PPSやRBRVSのほかにもHMOなるものを法制化して、医療費管理を支援しようとした。
HMOという言葉は、当時のニクソン大統領の側近が作った新語で、その時点では、地域の住民に向けては病気のときに診てもらう医療機関を限定し、それら医療機関に向けては人頭払いで契約することで医療費支出を安定化するという会員組織であった。
いわゆる医療保険であるが、医療ネットワークがセットになっている点に特色がある。
そのため、法制化当初は病院など医療機関がHMOを経営しているケースが少なくない。
この辺りの事情については後で事例をもって紹介する。
HMOの発想は、国民皆保険制度の下でどこの医療機関にもかかれる日本の仕組みに慣れている我々にとっては、新奇に見えるかもしれない。
米国では、このように地域の集団を対象にした医療現物給付と医療提供側への定額払いの仕組みは、一九二九年にテキサス州ダラスのベイラー大学病院の院長が考えついた医療保険に始まっている。
これはダラスの学校の先生たちが、毎週五〇セント払うことで、入院治療が必要となったときに最大三週間、その病院が面倒をみるというものであった。
この仕組みは患者側の利便のみならず、病院側の経営を安定させることにも役立ったという。
これが発端となって、やがて現在の巨大な米国医療保険組織であるブルークロス・ブルーシールドへと発展した。
今日、ブルークロス・ブルーシールドは全国に五四の拠点が、現在、最も著名なマネジドケア組織であるカイザー・ヘルス・プランである。
もちろん、ブルークロス・ブルーシールドもカイザー・ヘルス・プランも発足当初から今のHMOのようなマネジドケア医療保険会社になったわけではない。
とくにブルークロス・ブルーシールドがマネジドケアの仕組みを自分たちの医療保険に取り込んだのは最近のことである。
再びHMOの話に戻ろう。
一九七三年にHMO法が成立した当初は、この組織は出来高払い制と比べて、すべての医療サービス提供において、費用を一〇〜四〇%安くすると公言され、雇用主側に対して通常の医療保険に加えてHMOの医療保険を従業員に提示するよう求めたという。
このプロモーションは、やがて費用対効果の良いマネジドケアの創出につながるが、それに至るまでに二〇年近くの年月がかかっている。
ひとつには、この法律が成立するときに、病院などの医療業関係者たちが自分たちの既存の利益が損なわれることを恐れて、HMOに加入しても医療保険の負担が大して変わらなくなるように、ロビイストたちを使ってHMO法を骨抜きにしてしまったことがある。
そのため、八〇年代初頭に改正が行われるまでは、この法律が逆にHMO発展の障害となったといわれている。
それはともかくとして、HMOなる医療保険形態の出現を法律で促進し、そのことが現在のマネジドケアと総括される医療サービス内容とそのファイナンスの管理手法開発へと結びついていく。
そして、従業員の医療保険負担が深刻となった雇用主側は、HMOを利用して、だんだんとその負担を限定するようになった。
つまり、医療保険のカバーの範囲によって自己負担が変わるような医療給付のメニューを用意してカフェテリア方式で従業員たちに選択させたのである。
これにより、雇用主側は幅広く医療サービスを約束する「定められた給付」方式を避けて、「定められた負担」方式へと向かったのである。
この方式ならば医療保険の給付内容にかかわらず、ある金額の負担を保障するだけである。
また、カフェテリアプラン方式は従業員たちにとっても選択の幅があるうえ、医療機関の間に患者獲得の競争をもたらすため医療費節約の交渉の余地も生まれた。
こうして、雇用主側にもようやく苛酷な保険料負担増の地獄から身を守る目処が立った。
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